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執筆者の写真五十嵐 直樹

フリースクール×空き家活用 地域課題解決事業①


今回から数回に渡って解説をしていきたいと思います。


この度、新潟市西区でいわゆる不登校児を対象としたフリースクールを運営されているフリースクール・ロビオキさんと共同体制を結び、現状圧倒的に不足しているフリースクールや子供の居場所を増やして行き、現代を生きる子供たちが安心して暮らしていける社会の環境整備を行う、という事業です。


フリースクール・ロビオキさんのHPはこちら→https://www.robioki.com/


この事業のきっかけは、身寄りなし問題研究会という会の定例会で、フリースクール・ロビオキを運営されている野口 治さんと知り合った所から始まりました。

お互いSNSを通じて存在は知っていたものの、直接お会いするのはその時が初めてでした。

その時に「フリースクールの場所が足りてないんです。借りたくて探してるんですが、なかなか見つからなくて…」と困っている現状をお聞きしました。


その後、私の方で条件に合いそうな中古住宅を近隣で探し提案した所、立地も良く、間取りも改装をしたら使える物件を見つけ、野口さんと検討を重ねながら進めて参りました。


建物(ハード)の部分はユー・ハウス工業

運営(ソフト)の部分はフリースクール・ロビオキさん


こうして民間事業者である我々がお互いに専門とする事業を担当し、手を取り共同で進める事で圧倒的に不足しているフリースクールや子供の居場所をまずは新潟市内を中心に増やしていきたいと、野口さんも私も同じ未来を見据えて事業を進めています。


今回はこの事業に取り組む事になった背景や思いなどを、数値やグラフなども交えてなるべく分かりやすく解説してみたいと思います。



【父親としての共感】


ロビオキさんが掲げている理念

「家庭・学校・フリースクールが手を携え、どんな子どもも置いていかず、みんなで子供を支える環境を作る」


ロビオキさんでは現在、20名を超える児童が通われているとの事です。野口さん親子が住む自宅を開放してフリースクールとしていますから、物理的な広さに限界があります。

その為、現在は新規の受入れをお断りしているらしく、積極的な募集をしていない現状でも毎月1、2組みは新規の相談や体験などに来られるそうです。


ここ最近、私の周りでも「実はウチの子供もなんです…」と話される方、本当に多いと実感しています。

我が家は当事者ではありませんが、長男が小学2年生、下の二人は未就学児とこれから子育てをする中で、当事者家族になる可能性も決して低くはないと考えています。

それくらい特別な事ではなく、当たり前に起こりうる事だ、と認識するようになりました。


そして、当事者本人はもちろんですがその家族、特に親にとって不登校というのは本当に死活問題でもあります。

例えば子供が学校に行かずに家にいる場合、当然両親のうちどちらかも在宅する事になります。やはり母親が多いとは思いますが、この場合は母親は勤めに出る事が出来なくなります。

私も現役世代として実感していますが、なかなか上がらない給与とは反対に年々増え続ける社会保険料の負担だったり、あらゆる生活用品、食品等での値上げであったり、子供を育てながら生活費も稼いでいくのがなかなか大変な時代です。

画像引用元:https://ten-navi.com/hacks/article-434-33639

社会保険料が高いと感じる理由とは|払いすぎない対策も解説 より


今や夫婦共働きが当たり前になった世代にとって、どちらかが働けないという環境はそもそもこれまで当たり前に過ごしてきた生活自体が困難になる可能性もあります。



グラフを見れば、時代とともに専業主婦世帯が減り、その代わりに共働き世帯が増加している事が一目瞭然ですね。


そしてそれを我が子のせいだ、なんて風に思いたくないという気持ちも保護者には当然あり、葛藤を続けながら日々をやり繰りしているのではと思います。もちろん各家庭によって事情は違うと思います。


ロビオキさんは当事者の児童はもちろんですが、その子の親や保護者に対しても支援を行っています。親子が共に笑顔になれる場所、という理念を元に保護者同士の繋がりの場や親子で参加できるレクレーションなども開催しています。


ですから、まずは一人の父親として、どのような事情があっても全ての子供達に学習の機会を、そして保護者も共に笑顔になれるように、というロビオキさんの理念には深く共感しています。



【建築事業者としての意義】


そして建築業に携わる者として、兼ねてより私が力を入れている空き家の利活用という視点からも、一つの有効な手段であると捉えています。

所有している物件が空き家になった場合、その後の選択肢としては

①売却する

②貸す(活用する)

③自分で住む

大きく分けてこの三択だと思われます。


①と③の場合は可能であればそれで解決しますが、②の貸す、活用するという事に関しては立地や条件次第という事になります。

もちろん住まいとして貸し出して借り手が見つかればそれで構いません。

ですが、日本において「総住宅数」と「総世帯数」の差が年々開いてきている事は国が発表している資料からも明らかです。


2018年の時点で、総住宅数が総世帯数を8,400万戸も上回っています。これはアパートやマンションなども含みますが、これだけの数の住宅が「余っている」状態であるのが日本の現状です。

未だに新しく分譲住宅が建てられ、アパートやマンションが建てられていますから、年々この差は広がっています。恐らく、2023年の現在もこの差はより広がっていると推測できます。


こうした背景を踏まえると、単純に賃貸住宅として貸し出しても借り手が見つかるかどうかも難しくなってきている現状です。もし見つかっても、希望した家賃では借りてくれずに減額値段交渉、なんてことも大いにありえると思います。


この事は当然把握しつつ、私としては如何に「住まい」という用途から別の用途へ置き換えられるかが、空き家利活用のポイントだと捉えていました。

そんな中「住まい」から「フリースクール」へとその用途を変える事が出来る今回の事業は、今後求められる事が増えると思われる空き家利活用の一つのモデルケースになり得ると、確信しています。


このように「父親としての共感」と「建築事業者としての意義」を踏まえて、取り組むべき事業であると判断し、これまで半年間進めて参りました。



【ボランティアではなく事業として成立させる難しさ】


細かい数字などは改めて解説しますが、正直この事業では多くの利益は臨めません。むしろ、黒字と赤字のラインギリギリ、といった所です。(笑)

当然ボランティアではこの取り組みは続きません。ある程度適正に利益を得る事で長く続けていける体制を整えなければ、1回の挑戦で終わってしまいます。


弊社は地域の小さな会社です。十分な余剰資本がある大きな会社ではありませんから、当然この事業の為に物件購入費用、改装費用の資金を銀行から融資してもらわなければいけません。

ですが、上記のように融資してもらう事業としては黒字ギリギリなものですから、一般的な投資案件として扱うには厳しく、銀行との融資交渉もなかなか思うように進みませんでした。

そんな中でも、知り合いからの縁で融資の相談を持ち掛けたけんしん(新潟県信用組合)寺尾東支店の倉島支店長さんからは

「一般的な利益を求める投資事業ではありませんが、地域貢献という意味でも必要な事業で、とても素敵な事業だと思います。」

と相談した当初から賛同して頂き、本当に何度も何度も検討を重ねて本部とも掛け合って頂き、なんとか融資の承認を得る事に尽力して頂きました。

この場をお借りして、改めてお礼を申し上げます。本当にありがとうございました!


こうして最低限の融資の目処が立ち、物件の売買契約も済ませ、月末に全てのやり取りを終えて11月から少しづつ工事に入っていくという段階になって、ようやくこうして情報をお伝えできる状況になりました。

もっと早く情報公開できればな、と思う所もありますが、途中で頓挫する可能性が存分にあったからです。



【不登校児の現状】


今回の事業に携わるまで私自身も何となくでしか感じていませんでしたが、事業を進める中で野口さんに現場の現状を教わったりしながら、自分でも色々と調べて日々勉強をしている最中です。


という今年の10月4日付けで新潟市が公表したの新潟市教育委員会が取りまとめた調査結果から抜粋します。

表にある通り、新潟市内の小中学校での不登校児童数は令和3年の1,501人から令和4年の1,967人と、1年間でおよそ500人も増えています。この結果には正直衝撃を受けました。

令和3年~4年にかけては未だ社会的にもコロナ禍であった事も要因の一つと言えるかもしれません。周りの当事者の方からお話を聞いていて、本当に理由は様々だと把握しています。

今年の人数は来年には発表になると思われますが、恐らく増えているのではないかと予測しています。


そしてこれは野口さんからお聞きしたのですが、現在新潟市内でフリースクールに通っている児童の人数は100人程度、との事。2,000人の中で、100人。

この数年でフリースクールも少しづつ増えてきているという話ですが、不登校児の増加には全く対応出来ていない。そんな状況なのが新潟市内のフリースクールの現状です。


もちろん全ての不登校児にとってフリースクールが解決策になる、という訳ではない事も理解しています。ですが、余りにも数が足りていないという現状はご理解頂けると思います。

行政は何をしているんだ、と思う方もいらっしゃると思います。私も思ったので、調べてみました。


新潟市のHPから抜粋しました。

まとめると、市としても無料で相談窓口は設けています。が、フリースクールなどの民間施設へ通う費用については保護者負担とし、現状では補助や助成は行っていません。


これは学校も含めてだと思いますが、行政も現状を把握はしているものの具体的な対策は出来ていない、という事です。

我々民間事業者が率先してフリースクールを展開し実績を作り、時には市議会議員さんを通して働きかけをしていきましょう、と野口さんとも話しています。



【日本社会にとっての不登校とは】


当事者ではありませんが、こうして事業を通して半年間携わってくると

「登校=正常、不登校=異常ではない」と私は捉える事が出来ています。


以前、実際に当事者の方から「本当に最初は戸惑ったし、現実を受け入れる事が出来ない期間は本当に毎日苦しかった」というお話を聞いた事もあります。

・何の前触れもなく、突然不登校になった

・親としても子どもが学校に行かないという事が恥ずかしく思えた

・家族以外は誰にも相談できない

・自分の育て方が悪かったのではないか、と自分を責めた


その様な事も仰っていました。

皆さん共通するのは、まさか我が子が不登校になるなんて、という事でした。


最近、不登校児についていくつかのニュースが目に入ってきました。


まずは10月17日に滋賀県の会議にて東近江市の小椋正清市長の発言について。

会議では、不登校の小中学生数が過去最多を更新して、国がフリースクールなどを支援する中、県独自の対応策に向けて各自治体トップらに意見が求められていました。

ニュース本文↓

”(小椋市長)「大半の善良な市民は、本当に嫌がる子どもを無理して学校という枠組みの中に押し込んででも、学校教育に基づく、義務教育を受けさそうとしているんです。」


「無理して無理して学校に行っている子に対してですね、『じゃあフリースクールがあるならそっちの方に僕も行きたい』という雪崩現象が起こるんじゃないか。」


「フリースクールって、よかれと思ってやることが、本当にこの国家の根幹を崩してしまうことになりかねないと私は危機感を持っているんです。」


このように持論を展開した市長。東近江市によりますと、会議後にも「不登校になる大半の責任は親にある」と発言していたといいます。”


あくまでも抜粋ですので、私も全てを把握している訳ではありませんが、どのような意図で一連の発言をしているかは大体想像できます。

特に「不登校になる大半の責任は親にある」という発言は、かなり決めつけに近い無責任な発言だったと考えています。

個人的な価値観を持ってそれを表現するのは自由ですが、少なくとも市長というある程度影響力のある立場の首長が、そのような影響を及ぼす場所でこういった発言をするのは余りにも配慮に欠ける不適切な振る舞いであったと私は捉えています。


続いては県内のニュース。こちらはフリースクールではなく、国が認めている「不登校特例校」について。

”新潟県議会で「不登校特例校」創設求める声 教育長は「普通学級復帰を目指すのが本来の姿」と消極姿勢

学習指導要領に縛られずに授業時間を減らすことができ、設置が国と自治体の努力義務とされる「学びの多様化学校(不登校特例校)」について、新潟県議会で10月5日、複数の県議会議員から創設を求める声が上がった。佐野哲郎教育長は「いくつか疑問点がある」と設置に消極的な姿勢を示した。

 不登校特例校は文部科学省が全ての都道府県と政令市で計300校の設置を目指している。全国には24校あるが、新潟県にはない。”


こちらはまぁ、ニュースの通りです。新潟が積極的に取り組む事なんてないよなぁ、という感想です。(笑)


これらのニュースから何となく日本社会における不登校児についての見解が見えてきます。

・基本的に学校に戻る事がベスト

・フリースクールなどを含む学びの多様化学校のような教育機関は、民間に任せるのではなく国や自治体が制度をしっかり作り管理するべき


言いたい事は分かりますが、それが上手く行ってればこんなに不登校児は増えないし、問題視されないはずです。

個人的には、フリースクールの全てが制度化してしまい、自由度がなくなり、マニュアルに沿った運営しか出来なくなったとします。

学校に行きたくない子が、まるで学校のようなフリースクールに通いたいと思いますかね?


日本お得意の、多様化と言いながら、多様性がなくなるパターンですね。


あまり行政に対して文句ばかり言っていても仕方ないので、志ある民間事業者でどんどんやるしかない、そんな状態であると捉えています。


まだまだこれから進める事業ですので、想定できない問題なども発生する可能性もありますが、包み隠さず情報公開する事で同じ志を持つ後続の事業者への支援と思って取り組んでいきたいと考えています。


次回は事業の具体的な内容について、解説したいと思います。

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